「あの図面、Aさんじゃないと開けない」。設計担当が1〜2名の会社では、この一言が業務を止めるスイッチになります。急ぎの改訂依頼が来ても、元データがどのフォルダにあるか分からない。開いても、いつ・誰が・何を直したのか追えない。結局、担当者が戻るまで待つか、図面を一から引き直すことになります。
属人化は担当者の能力の問題ではなく、日々の納期をこなすために、その人が自分に最適化された手順を積み上げた結果です。だからこそ、精神論ではなく手順で解消できます。この記事では、症状の見分け方、属人化を生む構造、解消していく順番を整理します。
補助金の対象になるか、先に確かめる
デジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)の通常枠は、補助率が原則1/2(補助上限450万円)です。当社はIT導入支援事業者として、対象になるツールのご提案と必要書類のご案内を行っています。交付申請はお客様ご自身のGビズIDで行っていただきます。審査があり、採択を保証するものではありません。
属人化している状態の具体的な症状
まず、自社が属人化しているかどうかを主観で判断しないことが重要です。次の症状のうち、いくつ当てはまるかで見てください。
| 症状 | 表面化する場面 | 放置したときのリスク |
|---|---|---|
| 特定の担当者しかファイルを開けない | 休暇・退職・急病時 | 改訂対応が止まる/再作図が発生 |
| ファイル名の命名規則がバラバラ | 過去案件の流用時 | 旧版で製作・施工してしまう |
| 変更履歴が追えない | 客先からの仕様確認 | 「なぜこの寸法か」を説明できない |
| 保存場所が個人PCやUSBに散在 | PC故障・入れ替え時 | データ消失/バックアップ対象外 |
| 客先支給データの変換手順が口伝 | 新しい取引先との取引開始 | 特定の人しか受注対応できない |
| 部品表や設計基準が個人のExcelにある | 見積・原価計算 | 数字の根拠が検証できない |
三つ以上当てはまるなら、すでに「その人が抜けたら回らない」状態です。厄介なのは、当人にとっては最短ルートで仕事が進んでいるため、本人に困っている自覚がない点です。
当社が導入支援の初回ヒアリングで実際によく伺うのは、次の3つです。
- 特定の担当者しかファイルを開けない
- データが複数の場所に散らばり、どれが最新か分からなくなっている
- 変更履歴が追えない
順番はおおよその体感で、厳密に集計したものではありません。ただ、この3つは単独ではなく同時に出てくることがほとんどです。散らばっているから最新が分からず、最新が分からないから触れる人が限られ、触れる人が限られるから履歴も残らない、という順に連鎖しています。
この3つが揃っている場合、ツールの検討より先に、どこに何があるかの棚卸しから入ることをお勧めしています。順番を逆にすると、散らばったままのデータを新しい入れ物に移すだけの作業になります。
属人化を生む3つの構造要因
1. ツールではなく運用の問題である
高機能なCADを入れても、保存場所と命名を各自の判断に任せていれば、散らかり方が高機能になるだけです。属人化の実体は、図面そのものではなく、図面にたどり着くまでの経路(どこに、どんな名前で、どの版が)が個人の記憶の中にあることです。ソフトの機能ではなく、運用ルールの領域です。
2. 整備する作業が評価されない
命名を揃える、フォルダを整理する、設計基準を文書に落とす。これらは売上に直結せず、成果としても見えにくい作業です。目の前の図面を1枚仕上げたほうが評価される環境では、誰も整備に手を出しません。結果として、整備は「手が空いたらやる仕事」に分類され、永遠に着手されません。
3. 引き継ぎの時間が物理的に取れない
設計担当が1〜2名の会社では、引き継ぎのための工数が計画に入っていません。退職が決まってから慌てて資料化しようとしても、最終出社日までに終わるのは、ファイルの場所を口頭で伝える程度です。属人化は平時に少しずつしか解消できません。
解消の順番:4ステップ
いきなりツールを導入しても定着しません。次の順番で進めます。
| 順番 | やること | 目的 | 想定される負荷 |
|---|---|---|---|
| ① 棚卸し | 現存する設計データの所在と量を洗い出す | 対象範囲を確定する | 高(初回のみ) |
| ② 規則づくり | 命名規則とフォルダ構成を決める | 探す時間をなくす | 中 |
| ③ 一元化 | 保存場所をサーバやクラウドに集約する | 個人PC依存を断つ | 中 |
| ④ 強制 | ツールの機能でルールを守らせる | ルールの形骸化を防ぐ | 低(設定後) |
① 現状の棚卸し
完璧を目指さないことが最大のコツです。全図面を対象にすると必ず頓挫します。「直近で改訂の可能性がある案件」と「繰り返し受注している製品・物件」に絞り、それ以外は倉庫扱いにします。この時点では整理せず、どこに何があるかの一覧を作るだけで十分です。
② 命名とフォルダの規則づくり
命名規則は、担当者本人に決めてもらってください。第三者が決めた規則は守られません。要素は絞り、「案件番号_部品名_版数」のように順序と区切り文字まで固定します。日付を入れる場合は数字8桁で揃え、和暦・西暦の混在をなくします。
フォルダは階層を浅くします。深いほど、探すコストと迷うコストが増えます。「案件」の下に「作図中/承認済/過去版」程度の粒度から始めるのが現実的です。
命名とレイヤの決め方は、それだけで一本分の手順になります。具体的な決め方はCADの作図ルールを社内で標準化する手順|6項目と定着策で扱っています。
③ 保存場所の一元化
規則を決めたら、置き場所を一つにします。ここで初めて個人PC・USB・メール添付からの脱却が起きます。同時に、バックアップの対象を「その一箇所」に定義できるようになります。一元化の効果は、探す時間の短縮よりも、バックアップとアクセス権限の管理が成立することにあります。
当社では、クラウドストレージを主軸にご提案しています。 拠点や在宅からのアクセス、バックアップ、アクセス権限の管理を、追加のサーバー構築なしに一度に満たせるためです。情報システムの専任者がいない会社ほど、この差が効いてきます。
ただし、通信環境や社内規程の制約でクラウドが選べない会社もあります。その場合は社内サーバやNASが選択肢になりますが、バックアップを誰がどの頻度で取るのか、アクセス権限を誰が管理するのかを、導入と同時に決めておく必要があります。ここを決めずに置き場所だけ変えると、「一箇所に集まったが、誰も管理していないデータ」ができあがります。
④ ツールによる強制
人の善意に頼るルールは必ず崩れます。最後に、ルールを守らないと保存できない状態をツールでつくります。図面管理機能やPDM、CAD側のテンプレート機能で、命名の一部を自動生成したり、チェックイン・チェックアウトで版を管理したりする形です。
重要なのは、①〜③を飛ばして④から入らないことです。ルールが決まっていない状態でツールを入れると、設定作業そのものが新たな属人化を生みます。
版が枝分かれする仕組みと、その止め方は図面のバージョン管理の方法|最新版が分からないを終わらせるで詳しく整理しています。ツール選定の前に、こちらを先に読むことをおすすめします。
ツールで解決できる範囲と、できない範囲
| 領域 | ツールで解決できるか | 補足 |
|---|---|---|
| 版管理・変更履歴の記録 | できる | チェックイン/チェックアウトで機械的に残る |
| 命名規則の徹底 | 一部できる | 自動採番は可能。意味づけは人が決める |
| アクセス権限とバックアップ | できる | 一元化が前提 |
| 設計意図・判断根拠の共有 | できない | なぜその寸法かは人が書き残すしかない |
| 客先ごとの暗黙の作法 | できない | 標準化の対象として別途文書化が必要 |
| データ互換性(他社CADとの受け渡し) | 一部できる | 中間形式の変換精度は事前検証が必要 |
線引きは明確です。ツールは「記録」と「強制」を担当し、人は「意味」を担当します。設計意図を残す作業を省いたまま管理ツールだけを入れても、履歴は増えるのに理由は分からない状態になります。
製品によって、記録と強制のどこまでを担えるかは大きく異なります。当社の取扱製品でいえば、たとえば旧バージョン形式での保存(=過去の版を後から開けるか)ひとつ取っても、Rhinoはほぼ全世代に遡れる一方、SketchUpは旧バージョン形式での保存自体が廃止されています。SOLIDWORKSは2024年から2世代前まで保存できるようになりましたが、アクティブなサブスクリプション契約が条件です。
「ツールを入れれば記録が残る」と一括りにせず、自社が使っている製品で何がどこまでできるかを、選定の前に確認してください。 製品ごとの詳細はCADライセンスは買い切りかサブスクか|判断の3基準で整理しています。
小さく始める場合の最初の一歩
いきなり全社展開を考えると動けません。次の一つだけから始めてください。
繰り返し受注している案件を1件選び、その関連データを一箇所に集める。
この1件で、命名規則の使い勝手、フォルダ階層の深さ、集約先の使いやすさが検証できます。うまくいかなくても影響範囲は1件で済みます。ここで固まった形を次の案件へ広げていきます。
もう一つ、平時から続けたいのが、改訂のたびに「変更理由を一行だけ書く」習慣です。文書化の負荷としては最小ですが、引き継ぎ時の情報量が大きく変わります。
なお、PCスペックが不足していると、集約先からファイルを開くだけで待ち時間が発生し、「やっぱり手元に置いたほうが速い」と個人PCへ戻ってしまいます。運用ルールが崩れる原因が実は動作速度だった、という例は珍しくありません。
人を増やすか外注に出すかで迷っている場合は、CADを外注から内製に切り替える判断基準|月何枚で逆転するかに判断の計算方法をまとめています。
ライセンスが誰に割り当てられているか分からなくなっている場合は、CADライセンスの管理方法|台数・持ち出し・退職時の実務の棚卸しの手順をご覧ください。
よくある質問
設計担当が1名しかいません。それでも属人化を解消する意味はありますか
あります。むしろ1名の会社ほど、その1名が抜けたときの影響が大きくなります。目的は「他の人がすぐ作図できるようにすること」ではなく、「他の人が現物にたどり着き、状況を把握できるようにすること」です。作図スキルの引き継ぎと、データの引き継ぎは分けて考えてください。スキル側の引き継ぎについてはCAD導入の前に知っておきたい社内教育の方法とよくある失敗例が参考になります。
過去の図面を全部整理しないと始められませんか
必要ありません。過去分は原則そのまま倉庫として残し、これから触るものだけを新ルールに乗せる方法が現実的です。全件移行は工数が読めず、途中で止まると新旧ルールが混在して以前より悪化します。
命名規則を決めても、結局守られません
守らせる仕組みが抜けている可能性が高いです。ルールを守らなくても保存できる状態では、忙しい日から順に崩れます。テンプレートや自動採番で「その形でしか保存できない」状態にするか、保存時にチェックする担当と頻度を決めてください。
図面管理ツールを入れれば、まとめて解決しますか
記録と強制の部分は解決します。ただし、設計意図や客先ごとの作法はツールの外側です。また、ルールが未確定のまま導入すると設定が複雑化し、その設定を理解している人が新たな属人化ポイントになります。棚卸しと規則づくりを先に済ませてください。図面管理システムで何ができるかは設計変更に強い!図面管理システムを導入するメリットについてにまとめています。
2D中心の体制ですが、3DやBIMへの移行と同時に進めるべきですか
同時進行は負荷が集中します。データの置き場所と命名を先に整えておくと、移行時に「どのデータを変換対象にするか」の判断が早くなります。属人化の解消を先行させ、移行はその上に乗せる順番をおすすめします。移行の判断基準は3DCAD導入のタイミングと判断基準|いつ2DCADから3DCADに切り替えるべき?を参考にしてください。
当社は、順番に進めることをお勧めしています。 ファイル管理がばらついたまま3DやBIMに移行しても、扱うデータが増える分だけ混乱が拡大するだけで、本当の意味での業務効率化には届かないと考えているためです。
整備にかかる期間は人数規模によりますが、目安としては20名規模の会社で1か月、50名規模で2か月程度を見ていただくことが多いです。これは棚卸しから命名規則の決定、置き場所の集約までの期間で、移行そのものはこの後になります。
※この期間は当社の見立てであり、現場の状況(過去データの量、拠点数、専任担当の有無)によって前後します。
CADジャンクションの導入支援について
補助金を活用する場合、交付申請はお客様ご自身のGビズIDで行っていただく必要があります。当社は、対象となるITツールのご提案、必要書類のご案内、申請手順のご説明、導入後の設定・研修までを伴走支援します。
補助額は申請枠・事業者規模・補助対象経費によって変わります。通常枠の場合、補助率は原則1/2(補助上限450万円)です。審査があり、採択を保証するものではありません。
制度内容は変更される場合があります。最新の要件・補助率・締切はデジタル化・AI導入補助金 事務局の公式サイトで必ずご確認ください。
この記事を読んだうえで、次に決めることがあれば
導入したい製品と使用人数をお知らせいただければ、お見積りと、補助金の対象になるかの確認結果をお返しします。製品が決まっていない段階のご相談も承ります。初回のご相談は無料です。